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カミュ『ペスト』あらすじ

カミュ『ペスト』あらすじ
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こんにちは、宮比ひとしです。

本日は、カミュ『ペスト』についてご紹介します。

 

不条理な病に立ち向かうときに読む小説

不条理な病に立ち向かうときに読む小説

 

中世ヨーロッパで人口の三分の1が亡くなったと言われる疫病があります。

もし日本で三分の1もの生命が失われたとしたら……

家族や親しい友人など三人に一人が亡くなったとしたら、あなたはどう思いますか?

今回紹介するのは、疫病を通して不条理を描いた作品。

集団的な不条理が降りかかってきたとき、人間がどう対処するのか。どう立ち向かうのか。

そして、ヒーローや聖者の美徳よりも人間の連帯することの大切さ、誠実さを痛感することができます。

 

さて、そんな不条理な病に立ち向かうときに読む小説をおすすめします。

本日のよりみちブックはこちら。

 

『ペスト』

『ペスト』

 

作者…アルベール・カミュ

 

ジャンル…ヒューマン、フランス文学

 

ボリューム 

 

難易度 

 

『ペスト』登場人物

『ペスト』登場人物

 

ベルナール・リウー

オランの医師

 

ランベール

取材でオランを訪れていた新聞記者

 

ジャン・タルー

観察記を記す旅行者

 

グラン

小説を書く下級役人

 

コタール

密売人

 

リシャール

医師会会長

 

パヌルー

イエズス会の神父

 

『ペスト』あらすじ

『ペスト』あらすじ

 

舞台はフランスの植民地、アルジェリアの港町オラン

身分を明かさない語り手によって、疫病ペストが流行する様を記録した形をとっている。

 

ある日、医師ベルナール・リウーはアパートの階段で一匹のネズミの死骸につまずく。

また、その日の夕方には、血を吐き死んでいくネズミに出くわした。

けれども、リウーの意識は結核を患う妻にいっており、気にも留めなかった。

街に往診にいくと、ネズミの死のことで話題になっていた。

それは日に日に増え続け、八千匹の死骸が処分されたと報じられると、街は得体の知れない恐怖に包まれる。

 

リウーのアパートの門番もネズミの死にうなされながら、高熱と激しい痛みに襲われ、息を引き取った。

そんなとき先輩医師であるカステルが訪ねてくると、リウーはペストが原因でないかと伝える。

県庁で知事や医師による対策会議が開かれるも、事態の重大さを感じつつも誰もペストだとは認めなかった。

医師会会長リシャールは苛立つリウーにペストだと確信を持っているのか訊ねる。

「言い回しは問題ではなく、市民の半数が死なされる危険がないかのように振る舞うべきではない」とリウーは主張した。

 

手をこまねいているうちに、疫病は衰退したかのように見えた数日後、突如として死者の数は増加した。

知事の元に植民地総督府から、ペストによる非常事態を宣告し、市を封鎖するよう命じられる。

オラン市への船や汽車、道路の往来はストップし、人々は街から出ることが出来なくなったことで、家族や恋人は引き離され、手紙さえも禁止となった。

ペストが市民に最初にもたらしたものは追放状態だった。

 

リウーは新聞記者ランベールと再開する。

ランベールは街が封鎖されたことにより恋人と会えなくなっていた。

彼は街を出るため、病気に感染していないことの証明を書いてほしいと頼むが、リウーは感染している可能性があると断る。

 

一方、イエズス会の神父パヌルーは市民に対して、悪しき人々の罪により監禁状態に服役させられていると説教していた。

 

偶然足止めを食らっていた旅行者ジャン・タルーはリユーを訪ね、危険な保健隊に参加することを決意する。

タルーは有志を集め保険隊を結成し、下級役人グランが参加した。

 

また、どうしても恋人に会いたいランベールは密売人コタールを介して非合法に脱出しようと試みるも失敗に終わる。

疲れ果てたランベールは、とある晩にリユーとタルーを部屋へ招き、スペイン内戦に従軍していたことを明かした。

そこでヒロイズムという人殺しが英雄となる様を目の当たりにしてきたが、それよりも心を惹かれるのは愛するもののために生き、死ぬことだと語る。

しかし、リユーが自分たちのやってることはヒロイズムとは関係なく、誠実に仕事を果たしていることだと伝えると、ランベールは保険隊に加わることを決心した。

 

発生から4ヶ月経った8月半ばになると、暑さとペストの猛威はピークを迎える。

やけになった市民の放火や略奪、死者は増え続け、棺や墓地が不足。

しかし、何より恐ろしいことに、親しい者の別離に苦しんでいた人が記憶も想像力も失っていったことだった。

絶望に慣れることは絶望そのものより悪いと、リウーは考える。

 

死の気配が立ち込める中、9月になるとペストは停滞状態となった。

リウー達、保健隊は危険と隣り合わせで戦い続けており心身ともに疲れ果てていた。

そんなところ、一人威勢よく振りまいていたのが密売人コタール。

ペストのおかげで警察に捕まる心配もなくなり、自由を手に入れていた。

 

ある晩、旅行者タルーはコタールに誘われ、劇場へ足を運ぶと事件が起きた。

突然、オペラ歌手がペストで倒れ、観客は出口に殺到する。

一方、新聞記者ランベールは保健隊で懸命に働くと同時に犯罪組織の手配で街を出る手筈も整えていた。

街を出ることをリウーが止めないことに、自分一人が幸福になることを恥ずべきこととして残る決意をする。

 

判事オトン氏の息子がペストに罹る。

病状は絶望的となり、リウーは最後の頼みである血清を少年に注射するが、結果として苦しみを長引かせだけで死は回避できなかった。

オトン少年を看取った後、パヌルー神父も保健隊に加わることとなり、最前線で献身的に働く。

 

パヌルーはペスト発生から二回目の説教を行うこととなった。

そこで、神の意思で自分がペストとなったら治療は受けないことを宣言する。

その後、パヌルーは体調を崩し倒れるが、宣言通り治療はしなかった。

ペストかどうかはっきりしないまま、彼は息を引き取った。

 

11月。

タルーは海を眺めながら、リウーにあることを告白する……

 

『ペスト』作者

『ペスト』作者

 

アルベール・カミュ(Albert Camus)

1913117 - 196014

フランス領アルジェリア出身

小説家、劇作家、哲学者、ジャーナリスト

 

父親を戦争で亡くし、ピエ・ノワール(黒い足)と差別を受けながら貧困街で育つ。

家には本がなく、家族には文字が読める者はいなかった。

第二次世界大戦中に刊行された『異邦人』や『シーシュポスの神話』などで不条理をテーマに扱い、注目される。

アルジェリア独立派に加担したとして植民地総督府から追放され、フランス本国に渡る。

ナチスドイツによる占領化、レジスタンス機関紙「コンバ」に筆を振るいながら『ペスト』の執筆にあたった。

1947年『ペスト』を発表すると、戦争を潜り抜けた層に大きな反響を呼ぶ。

1957年、43歳、史上2番目の若さでノーベル文学賞を受賞。

1960年、交通事故にて死去。

 

代表作…『シーシュポスの神話』『異邦人』

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『ペスト』解説と考察

『ペスト』解説と考察

 

港町オラン

 

実在する都市であり、1830年からフランスの植民地だった北アフリカ・アルジェリアの第二の都市。

人口20万人の地中海に面した港町であり、貿易の中心地。経済主義であり、人々は文化よりも金儲けになる商売や物質的な繁栄を重じている。

 

  • 追放状態

 

ペストが市民に最初にもたらしたものは追放状態だったが、市民は追放されたことに気がつかない。

封鎖状態が一時的なものと思い込んでいる市民は、毎日が日曜日であるかのような感覚で働かなくてもいいことに楽観的に考えている。

 

抽象について

 

恋人に会いたいがため、感染していないことへの証明を断ると、ランベールはリウーに対してこう言う。

「あなたが語っているのは理性の言葉だ。あなたは抽象の世界にいるのだ」

抽象とは、医師としての職業上の理念ペストという非現実的な災害という意味が込められている。

リウーは抽象と戦うためには抽象に似なければならない。今ある理念を持ってしかペストと戦えないと決意する。

 

神の天罰なのか

 

イエズス会の神父パヌルーは、ペストは神が下した人間への天罰であると説く。つまり、神が救ってくれることを示唆する。

リユーとタルーは人間の責任とは考えない。

リユーは見極めること、タルーは理解することが必要だと考える。

 

絶望への慣れ

 

絶望に慣れることは、絶望そのものより悪い。

記憶もなく、希望もなく、彼らはただ現在のなかにはまりこんでいた。

げんに彼らには、現在しかなかった。

ペストによって愛する者を失うことで、感情そのものがなくなる。

絶望に慣れると、絶望を脱しようとする気持ちもなくなる。

 

オトン少年の死

 

罪のないオトン少年が苦しみながら死ぬことで、リウーはパヌルー神父に怒りをぶつけた。

罪のない子どもが死んでいくことは、世界の不条理の究極のイメージである。

子どもたちが罪なく死んでいく世界には絶対に同意しないとのカミュのメッセージとされる。

 

パヌルーの治療拒否

 

オトン少年の死によって、パヌルーは神の意志に疑念を抱くこととなる。

体調を崩して倒れるが、もし、治療を望めば病気にかかるべきだという神の意思を否定することになると考えた。

神の意思に従うため、治療拒否を決断する。

ペストによる死を受け入れることで、神の存在を証明しようとした。

 

タルーの正体

 

タルーは徹底した死刑廃止論者であった。

リウーに対して、ずっと前からペストにかかっていたと告白する。

ここで言うペストとは人を殺すことであり、自分が人殺しの側に回っていたことが、死ぬほど恥ずかしかったと明かす。

戦争や死刑制度のシステムが人の死を容認しており、それに加担していると考えていた。

カミュは内なるペスト(悪)を表現したかっといえる。

 

考察

 

中世ヨーロッパで多くの人が亡くなった疫病ペストという不条理との闘いを描いたカミュの代表作。

集団的な不条理が降りかかってきたとき、人間がどう考え、どう行動するのかを、様々な人物の視点から描かれています。

それぞれの仕事を誠実にまっとうすること、一人一人の人間が連帯することの大切さを感じることができるでしょう。

 

以上、不条理な病に立ち向かうときに読む小説としてカミュ『ペスト』をご紹介しました。

本日は最後までお読みいただきありがとうございます。

それでは、素敵なよりみちライフを。