こんにちは、宮比ひとしです。
本日は、三島由紀夫『仮面の告白』についてご紹介します。
はじめに
他者との関わりの中で、本当は面白くもないのに周りに合わせて笑ったり、本音と違うことを話すことってありますよね。
他者とうまく馴染むためには仕方のないことでしょう。
そうしなければ、自分だけ浮いてしまったり、爪弾きにされてしまう恐れがあるから。
自分自身に偽りなく生きているって胸を張って言える方ってどのくらいいるのでしょうか。
おそらく、多くの人は他者から見た自分を気にして、本当の自分を隠すための仮面をかぶって生きています。
その仮面は他者と円滑にコミュニケーションをとるため必要なもので、成長する過程で自然と身につけていくスキルとも言えます。
多かれ少なかれ、誰しもがかぶっている仮面。
けれども、その仮面と本来の自分との乖離があまりにも大きければどうでしょうか?
きっと心に苦痛が生じます。
悩みの内容は人それぞれ異なりますが、あなたがLBGT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)だとしたら、身体と精神が引き裂かれるような多大な苦痛を及ぼす場合があります。
この悩みを一体誰に相談したらいいのか。
親? 友人? 学校の先生? 会社の上司? 顔も名前も知らないネット上の知人?
本当の自分を知ってほしいけれど、話しても理解してもらえないんじゃないか、カミングアウトした途端に嫌われるんじゃないか。
想像しただけで、目の前が真っ暗になり、出口の見えないトンネルに迷い込んだ気分になります。
LGBTで悩んでる人はどう生きればいいのか。
同じ境遇の人が周りにいたらどんなに心強いだろう、こんな風に思うことないでしょうか。
そんなあなたにLGBTに悩んだときに読む小説をご紹介します。
本日のよりみちブックはこちら。
『仮面の告白』基本情報
作者…三島 由紀夫
ジャンル…恋愛
ボリューム
難易度
『仮面の告白』登場人物
私
幼い頃から男性に惹かれる主人公
草野 園子(くさの そのこ)
主人公の友人の妹である美しい女性
近江(おうみ)
たくましい身体つきの不良じみた性格の少年
『仮面の告白』あらすじ
(グイド・レーニ『聖セバスチャンの殉教』より)
大正12年関東大震災の翌々年、土地柄のあまりよくない町の一角ある古い借家に長男として生まれた私。
祖父、祖母、父、母と女中6人と暮らしており、祖父の事業欲と祖母の病気と浪費癖が一家の悩みの種であった。
二階に住んでいた両親から、祖母は二階で赤ん坊を育てるのは危険だとの理由で、生まれて49日目になる私をかよわく美しい母から奪いとった。
それから、老いの匂いにむせかえるような病室で私は育てられる。
5歳で喀血し、虚弱であった私のことを祖母は溺愛していた。
その頃から、汚穢屋という便所の汲み取りをする若者に憧れを抱いたり、ジャンヌ・ダルクが女性であることを知って打ちひしがれることがあった。
中学生のときには、グイド・レーニ『聖セバスチャンの殉教』の絵を見て欲情し、自慰行為を経験し、クラスで不良じみた存在の級友である近江に恋心を抱いていた。
そこで私は同世代の男が女性に対して抱く感情がないこと、自身の性的嗜好が同性にあることを自覚する。
若い男性の肉体にしか欲情しないことを知りながらも、いつかは女性を愛せるようになると私は信じていた。
昭和19年、高等学校の級友である草野の家で18歳の妹、園子と知り合った。
そして、大学法学部へと進んだ21歳の私は、召集令状を受け取るも身体検査の誤診で帰郷。
草野の母から入隊していた彼への面会に誘われ、待ち合わせの駅で園子と再開する。
本の貸し借りや文通を経て、二人の間は親密になっていくと、次第に園子の美しさに心を動かされるようになる。
彼女といると潔らかな気持になることで、交際を始めるが……
『仮面の告白』作者
三島 由紀夫(みしま ゆきお)
1925年1月14日-1970年11月25日
現:東京都生まれ
小説家、劇作家
本名、平岡公威(きみたけ)
学習院中等科在学中に『花ざかりの森』を書き、早熟の才をうたわれる。
東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職し、執筆活動に入る。
49年に最初の書き下ろし長編である『仮面の告白』を刊行し、作家としての地位を確立。
70年、自衛隊市ヶ谷駐屯地でクーデターを起こし、自決する。
代表作…『潮騒』『金閣寺』『豊饒の海』
『仮面の告白』考察
『仮面の告白』は三島由紀夫の自伝的小説と呼ばれています。
幼少期病弱で祖母に育てられていたことや、入隊前に医師の誤診により帰郷したことなど三島由紀夫と重なる点が挙げられます。
この作品は、仮面をかぶり続けた主人公の告白録として、幼少期から青年期にかけての同性愛についての苦悩が赤裸々に語られています。
幼少期のその兆候から、青年期の同性愛者であることを自覚する過程におけるエピソードをご紹介していきます。
私の半生を悩まし脅かしつづけたものの、最初の記念の影像として、糞尿汲取人である汚穢屋。
汚れた若者の姿を見上げながら、『私が彼になりたい』という欲求、『私が彼でありたい』という欲求を感じます。
また、絵本で見たジャンヌ・ダルクに心をときめかすものの、それが女だと聞かされ、打ちひしがれます。
漫画の本を読んでは、執拗に殺される王子の幻影を追います。体にはかすれ傷一つついておりません、という一行に作者に裏切られたと感じ、作者は重大な過失を犯していると考えます。
男性の汗の匂いや血、つまりは彼らの職業の悲劇性や彼らの死に官能的欲求を目覚めさせていたのです。
13歳には、父の外国土産の画集にあるグイド・レーニの『聖セバスチャン』(上記画像)を見た刹那、「或る異教的な歓喜に押しゆるがされ」激しく興奮します。
これが最初のejaculatio(射精)であり「悪習」のはじまりだったと語られています。
中学二年の私は、すでに性経験があるという噂されていた級友である近江のたくましさに最初の恋を意識しました。
体育の授業中、鉄棒で懸垂を始めた彼の腋窩に生い茂る豊饒な毛に興奮し、同時にそのことへの強烈な嫉妬に襲われます。
以上、同性愛を自覚に至るエピソードでした。
最後に、思春期になると自分の好きなタイプを友人に話したり、好きな人についての相談をしたりしますが、LGBTの方にとってそれはとても勇気がいることです。
この作品は三島由紀夫の自伝的小説であり全てが真実ではないですが、カミングアウトできずに悩んでいる方にとって、同じ境遇の人がどう生きたかを知ることは心のよりどころになったり、心強く感じるのではないでしょうか。
本日は、LGBTに悩んだときに読む小説として三島由紀夫『仮面の告白』をご紹介しました。
最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは、素敵なよりみちライフを。