こんにちは、宮比ひとしです。
本日は、今日ヒマだし死んでみようかなってときに読む小説として三島由紀夫『命売ります』をご紹介します。
今日ヒマだし死んでみようかなってときに読む小説

みなさん、元気ですかー︎!
元気があれば何でもできる!
1、2、3、ダー!!
はい。
いま冷めた目で見たあなた、この指止まれ。
みんな元気に生きてるわけないじゃないですか。
中には、生きることに疲れきってる人もいるんですよ。
生きてるだけで精一杯。もうね、いっぱいいっぱいなわけですよ。
ステータスフレームが橙色になるくらい瀕死、宿屋で泊まってもHP回復しない、悪質なロールプレイングゲームやらされてる気分ですよ。
ほんと、人生という名の無理ゲー。
トルネコなんて足踏みしてるだけで、めきめき回復するのにね。
お腹は減るけど。
死にたいわーってしょっちゅう思うけど、そんな橙フレームの瀕死状態で長く生きてるとね、なんというか、それに慣れちゃうわけですよ。
観衆の中、華々しくビルの屋上から飛び降り自殺やら、用意周到に未練たらたらの遺書を残して練炭自殺やらもう考えないですよ。アウトオブ眼中。
垣根が低いんですよね。生と死の。
「今日ヒマだし何しようかな? ごろ寝するかー。でも最近運動不足だし散歩でもしようかな。でもな、もうすぐ雨降ってきそうだしな。あ、そうだ、自殺でもするか」
みたいなノリですよ。
こんなラフな感じで書くと「こっちは本気で悩んでるのに! こんなの読ませんじゃねー!」って怒られるかもしれないけど、こっちも本気ですよ。
もうね止まらない、止まらない。
ロマンティックが止まらない、の勢いですよ。
誰か、止めて、胸が胸が苦しくなるってね。
だけど、そんな思いに待ったをかけることがあります。
ほら、普段は必要ないなって感じてても、無くなるって分かると妙に名残惜しくなるときってないですか?
小学生の高学年の頃、こんなことがありました。
ある日、近所に住む二つくらい年下の子が家に遊びに来たんです。ドラキュラのような尖った耳が特徴の男の子(以降、ドラ耳)でした。
普段はあまり遊ばなくなったオモチャ箱からドラ耳は茶色のボロ切れっぽいのを発見したんですね。
それはシッポでした。ドラゴンボールの少年期の悟空がお尻から生やしてたシッポのオモチャ。キーホルダーになってて、ベルト通しにつけると生えてるみたいに見えるってやつです。
「いいなー、どこで買ったの? まだ売ってる?」
ドラ耳の心鷲掴み。
当時でさえフリーザあたりまで物語は進んでて、さすがに売ってないんじゃね?ってなことを言っても、引き下がりません。
シッポさえ手に入れば、どんな願いも一つ叶うんだってくらい懇願してくるんですよ。
数分前まで、そういやこんなのあったなーレベルで、数秒前まであげてもいいやって思ってたんですけどね。そこまで切実に求められると、なんだか急に無くなるのが惜しくなってきたんですね。
「でもこれ親から買ってもらったもんだし、勝手にあげたら怒られるから」とか言い訳してたら、聞き耳立ててた母親が「あんたもう遊んでないんだからあげたらいいじゃない」とまさかの一言。
思わぬ助け舟にドラ耳は嬉々としました。
正直焦りました。
このままあげてしまっていいのか?
後悔しないのか?
宮比が渋っていると、「そうだからいらないオモチャが溜まっていくのよ。あげてちょっとは減らしなさい」と母。
こうなると、ドラ耳そっちのけで宮比VS母の構図となりますよね。
「遊んでるから。週一で。いや、遊びというよりも修行だから。このシッポつけて週一でかめはめ波の特訓してるからね。最近ようやくポゥッて気が出せるようになってきたどころだからね。今やめるわけにいかないんだよね」
必死に訴えましたよ。
なんなら、このシッポさえ守りきればどんな願いも叶うってくらい懇願してました。
最終的にドラ耳はシッポを諦めました。
母親もあの日を境に宮比に対していろんなことを諦めたように思います。
必要ないと思ってても、いざ手元から離れるとなると惜しくなるのが人間のサガですよね。
シッポ、されどシッポ。
それは命も同じじゃないでしょうか。
さて、そんな今日ヒマだし死んでみようかなってときに読む小説をおすすめします。
本日のよりみちブックはこちら。
『命売ります』

作者…三島 由紀夫
ジャンル…ヒューマン、エンタメ
ボリューム
難易度
『命売ります』登場人物

山田 羽仁男(やまだ はにお)
自殺しそこない、命を売りに出した青年
老人
最初に命を買いにきた男
岸 るり子
老人の妻であり、悪党の愛人。
『命売ります』あらすじ

山田羽仁男が目を覚ますと、看護婦と消防隊員が安堵の声を上げた。
睡眠薬の多量摂取したものの、自殺は失敗したことに気づく。
広告会社に勤め、コピーライターとしてTVコマーシャルなどを手がける羽仁男。
真面目な社員として働いていたが、ある日夕刊を読んでいたら活字がみんなゴキブリに見えてしまい、むしょうに死にたくなってしまったのだった。
自殺しそこなった羽仁男は自由な世界が開けた感覚があった。
さっそく会社を退職すると、新聞の求職欄に「命売ります。お好きな目的にお使いください。当方、二十七歳男子。秘密は一切守り、決して迷惑はおかけしません」と広告を出し、自室のドアに「ライフ・フォア・セイル」と洒落たレタリングの紙を貼った。
あくる日、小柄な老人が訪ねてきた。
23歳の妻である岸るり子が悪党の愛人になっていること知った老人。
そこで、羽仁男がるり子に接近し、二人の密通を悪党にわざと発見させるように仕向けてほしいと依頼を持ちかける。
「悪党によって妻が殺されることで、溜飲が下る。また、そのときは間違いなく羽仁男は殺される」と老人は言った。
依頼を請け負うと、羽仁男は「ライフ・フォア・セイル」の札をひっくり返した。
「只今売切れ中」
『命売ります』作者

三島 由紀夫(みしま ゆきお)
1925年1月14日-1970年11月25日
現:東京都生まれ
小説家、劇作家
本名、平岡公威(きみたけ)
学習院中等科在学中に『花ざかりの森』を書き、早熟の才をうたわれる。
東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職し、執筆活動に入る。
49年に最初の書き下ろし長編である『仮面の告白』を刊行し、作家としての地位を確立。
70年、自衛隊市ヶ谷駐屯地でクーデターを起こし、自決する。
代表作…『潮騒』『金閣寺』『仮面の告白』
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『命売ります』考察

たいした理由もなく自殺を試みるも失敗し、それならば命を商売にしてしまおうとした男の物語。
三島由紀夫といえば『金閣寺』か『仮面の告白』しか思い浮かばないという方は必見ですよ。
堅いイメージがひっくり返るくらい、この作品はエンタメ色が強く、時代を感じさせない内容となっています。
昭和43年に「プレイボーイ」に掲載されたのですが、今読んでも色あせないばかりか眩く映ります。
また、この時期は三島由紀夫が結成した楯の会の前身組織である民間防衛組織・祖国防衛隊の計画もなされていた頃。
主人公を通して三島由紀夫の本音が垣間見える気がして、単なるエンタメ小説として読むだけではもったいないような作品とも言えますよね。
命を売りに出し、数々の来訪があるも中々うまくはいかないわけですが、危険な目に合ううちに、ふいに主人公の心境に変化が訪れます。
必要ないと思ってても、いざ手元から離れるとなると惜しくなるのが人間のサガ。
命もきっとそう。
宮比が幼い頃に死守した悟空のシッポのように。
以上、今日ヒマだし死んでみようかなってときに読む小説として三島由紀夫『命売ります』をご紹介しました。
最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは、素敵なよりみちライフを。