こんにちは、宮比ひとしです。
本日は、ジッド『狭き門』を、宗教に熱心な恋人ができたときに読むおすすめ小説として紹介します。
宗教に熱心な恋人ができたときに読むおすすめ小説
宗教は個人の自由だ、ってよく言うじゃないですか。
信じる神様がいて、そのために自身を律する行為は敬うべきものですよね。
でも、あなたの恋人が極度に宗教熱心だとしたらどうでしょう。
「今まで黙ってたけど僕はニンニク教なんだ。朝はニンニクチャーハン、昼はニンニクたっぷりギョーザ、夜はニンニク丸かじりするのさ。お風呂はニンニク風呂で身体を清め、ニンニク神にお祈りして寝るのが日課だよ。そうそう、今日キミの誕生日だよね。実はサプライズでプレゼントを用意してたのさ。どうだい? イカスだろ。キミにとても似合ってるよ……そのニンニクのネックレス」
こんな彼を、あなたは愛することができますか?
「今まで黙ってたけど私は鼻毛教なの。朝はシャンプーにトリートメント、昼はノーズエステ、夜は育毛剤してるの。鼻毛のためならどんな努力も惜しまないわ。そのかいあって、やっと唇にふれるくらいに伸びたのよ。でも私なんてまだまだ序の口。長年信仰している人の中にはマフラーみたいに巻き付けてる人もいるの。ちょっと……憧れちゃうな」
こんな彼女を、あなたは愛することができますか?
程度にもよりますよね。
宗教に熱心であればあるほど、付き合う上で弊害となる可能性が出てきます。
付き合っている時、結婚する時、子どもができた時。
きっと人生の節目節目で考え方や環境の違いを実感し、思い悩むことがあるでしょう。
それでも、恋人を理解したい。
宗教に熱心だろうが、ニンニクばっかり食べようが、鼻毛をこれでもかって伸ばそうが、そんなの関係ない。
だって愛してるから。
さて、そんなあなたに宗教に熱心な恋人ができたときに読むおすすめ小説を紹介します。
本日のよりみちブックはこちら。
『狭き門』
作者…アンドレ・ジッド
訳者…山内義雄
ジャンル…恋愛、宗教
ボリューム
難易度
ブレイブ度
フェイス度
ジッ度
『狭き門』登場人物
ジェローム・パリシエ
アリサとの恋に苦悩する青年
アリサ・ビュコラン
ジェロームの幸福と自身の信仰心とで葛藤する美しい女性
ジュリエット・ビュコラン
快活なアリサの妹
リュシル・ビュコラン
不貞をはたらくアリサの母
『狭き門』あらすじ
早くに父を失った主人公ジェロームは、学業に都合がよいからとの理由でパリに移り住んでいた。
ひよわな体質の息子を心配した母は、夏になるとたびたび彼をつれてパリからル・アーヴル近郊のフォングーズマールにある叔父の家を訪れるようになる。
叔父のビュコラン家で、ジェロームのいとことなる二歳年上のアリサと一歳年下ジュリエット、二人の美しい姉妹と知り合った。
二年後のある日、ジェロームはアリサの母リュシルが見知らぬ男を部屋に連れ込んでいるのを目撃する。
そして、アリサが母の不貞に気づいており、心を痛めていることを知ることとなった。
翌年の夏にジェロームは恋心を抱いていたアリサに想いを告げ、二人は婚約を誓う。
妹ジュリエットもジェロームに好意があることを知ったアリサは自らを遠ざけるが、ジュリエットは親族と共に二人が結ばれることを願うこととなる。
アリサは母の不貞や不幸な環境のため、「天上の愛」を求め、キリスト教の信仰を深めていく。
次第に、アリサはジェロームへの「地上の愛」と、キリスト教への信仰心である神への愛を両立させることが不可能だと悟っていた。
ジェロームはアリサの信仰心を理解しようと一途に待ち続けるも、神の国に憧れを持つアリサは婚約を破棄して、ある決断する。
そして、アリサの日記にはジェロームのことを愛する気持ちと「狭き門」を通る苦悩が記されていた……
『狭き門』作者
アンドレ・ポール・ギヨーム・ジッド(André Paul Guillaume Gide)
1869年11月22日-1951年2月19日
フランス出身
小説家
アルザス学園で学ぶが放任となり、神経を病む。
北アフリカにたびたび赴き、娼婦との交流や男性愛を経験し、文学への道を志す。
1947年ノーベル文学賞を受賞する。
代表作…『狭き門』『田園交響楽』『贋金つくり』
『狭き門』まとめ
この小説は、ジェロームとアリサの恋愛物語です。
二部構成となっており、前半はジェロームの回想録、後半はアリサの日記。
これらにふれることで、それぞれ二人の想いや宗教観の違いが次第に明らかになります。
さて、今回は『狭き門』の難易度を、星4つとしました。
これは、文章を読み進めるのに困難という訳ではございません。
さきほど、宗教観の違いと述べましたが、読むにあたってアリサの宗教に対する考え方が物語を非常に複雑にしているからです。
そして、そこを読み解くことで、今回のテーマでもある「宗教に熱心な恋人を理解する」という目的に繋がっていきます。
タイトルの意味とアリサの宗教観、この二つの項目に分けて説明しましょう。
タイトルの意味
『狭き門』というタイトルは、「規律を遵守した者だけが天国で救われる」というキリストの教えを表したものです。
キリストの教えと言えば聖書ですね。
新約聖書のマタイ福音書第7章第13節にあるイエス・キリストの言葉に由来しています。
――狭き門より入れ、滅にいたる門は大きく、その路は広く、これより入る者多い――
自分の中に残っているあらゆる利己心を捨て、規律を守った限られた者こそが狭き門を通ることができ、天上の愛を手にすることができると解釈できます。
アリサの宗教観
アリサの宗教観を踏まえ、恋人との幸福の価値観について説明します。
アリサは作中で幸福について語ります。
「ジェロームのそばにいること以上に幸福なことはない。でも、幸福になるために生まれてきたのではない」
魂は幸福以上になにを望む、と言う問いかけに「聖らかさ」と答えます。
つまり、アリサにとっては恋人との幸福よりも魂の聖らかさの方が大切なのです。
アリサはジェロームを愛する故に苦悩します。
そして、ジェロームが神よりも自身であるアリサを愛していると考えます。
自分のための徳を積もうとすることは間違っており、二人が愛し合うことは聖らかさを失うことなるという思いに行きつくのです。
さらに、タイトルにもある狭き門は、二人一緒には通ることができないほと狭いのだと理解しています。
二人のうちどちらか一方だけが、神の国に進むことができる、と解釈するのです。
最終的に彼女が出した決断はネタバレになるので伏せますが、キリスト教徒でない人にとっては、おそらくアリサの考えや行動は理解し難いものであると思います。
ときに苛立ちを覚えるかもしれません。
ただ、そのアリサに対する苛立ちや歯がゆさの感情をあなたが感じることこそが、『狭き門』をおすすめする理由でもあります。
小説ではキリスト教が取り上げられていますが、多種多様な宗教があり、信仰があります。
宗教に熱心な恋人を理解するということは、その相手の宗教観を受容することだと、宮比は考えます。
なぜなら、神様を信じる信仰心は、その人の心の一部だからです。
神様は心に宿ります。
あなたがその宗教ではないからといって、神様を否定することは、恋人の心そのものを否定することになります。
愛する人に否定されることこそ苦痛はないでしょう。
そして、恋人を傷つけることはあなたにとっても苦痛なことだと思います。
この小説を読むことで、違った宗教観を持つ人の心の苦しみや葛藤を理解できるようになるのではないでしょうか。
また、著者ジッドにとって、アリサのような過度なまでの自己犠牲の精神に対して否定的な見解からこの物語は作られています。
あなただけでなく、その恋人自身とこの物語を共有することで、「地上の愛」と「天上の愛」を分かち合えるのを願っておすすめします。
以上、宗教に熱心な恋人ができたときに読むおすすめ小説としてジッド『狭き門』を紹介しました。
興味が湧きましたら、ぜひ手に取って読んでみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、素敵なよりみちライフを。