こんにちは、宮比ひとしです。
本日は、夢野久作の『木魂』を「呼び声が聞こえた時に読む小説」として紹介します。
呼び声が聞こえたときに読むおすすめ小説
物音のないシーンと静まり返った場所。
別れたはずの恋人や亡くなった家族が、自分に向かって呼びかける声が聞こえる。
振り返ってみるものの、そこには誰もいない。
思い詰めていたからだろうか。
きっと気のせいだ。
そう自分に言い聞かせてみるもの、腑に落ちない。
確かに、感覚が耳に残っている。
気のせいなんて思えないほど、現実的な声。
そんな経験ないですか?
その主の無い声の正体は一体なんなのか。
さて、そんな「呼び声が聞こえた時に読む小説」をおすすめします。
本日のよりみちブックはこちら。
『木魂(すだま)』
作者…夢野 久作
ジャンル…家族愛
ボリューム
難易度
『木魂』登場人物
主人公
汽車に轢き殺されるだろうと不吉な予感を抱える小学教師
キセ子
重い肺病に罹って亡くなった主人公の妻
太郎
数理的才能があったが轢死した主人公の息子
『木魂』あらすじ
主人公は幼い頃から好きな数学に熱中していると、学校の図書館や人通りの無い国道、放課後の教室で、知らない声から呼びかけられる経験を繰り返していた。
それを木魂と呼び、自分自身の魂の声だと考えるようになる。
小学教員となった彼は、キセ子と結婚し、一人息子の太郎が生まれた。
太郎のことを愛しながらも、数学的才能を他人の前で発表することのないよう命じていた。
また、生まれつき素直だった太郎は、肺病で亡くなったキセ子の遺言を守り、学校への近道である線路にも立ち入らなかった。
しかし、あの日列車に轢かれて死んでしまう。
それからというもの「お父さん、お父さん」と最愛の息子の呼び声が主人公を襲うようになる……
『木魂』作者
夢野 久作(ゆめの きゅうさく)
1889年1月4日-1936年3月11日
福岡県福岡市生まれ
小説家、新聞記者
本名は杉山泰道(たいどう)。
慶応義塾大学中退。陸軍少尉を経て、1913年に出家するも数年で還俗した後、新聞記者となる。
ルポルタージュや童話を執筆し、1926年に雑誌『新青年』にて『あやかしの鼓』が入選し、探偵小説作家としてデビューとなる。
ペンネームである夢野久作は福岡の方言で夢想家の意で、小説を読んだ父親が命名。
夢想家の名らしく、怪奇的かつ幻想的な世界観が特徴。
代表作…『ドグラ・マグラ』『少女地獄』
『木魂』考察
『ドグラ・マグラ』や『少女地獄』でおなじみ夢野久作の短編小説。
『木魂』は聞いたことないな~、って方多いのではないでしょうか。
みんなが耳にしたことがある人気作は、認知されてるだけあって一定レベルの面白さはありますよね。
しかし、それが自分にとって心に残る作品になるかっていうと、そうではなかったりします。
逆に、あまり知られていない作品でも、こんなに面白いのになんで評価されてないの、って不思議に思うこともあります。
同時に、考古学者が新種の化石でも発見したかのように興奮し、それを知らない誰かに勧めたい衝動にかられます。
宮比にとって『木魂』は、そんな小説。
知ってる人にとったら、何を今更って感じだけど、読んだとき思わず唸っちゃいましたもん。
さて、誰もいないはずなのに呼び声が聞こえる。
それは自分自身の魂の声「木魂」かもしれません。
見どころは、二つ。
一つは、自分に呼びかける声が聞こえる木魂という心理現象を数式で解釈するシーンです。
「ほほう、数学者はこんな風に思考するのか」なんつって、まったく理解していないにも関わらず、宮比は上から目線で感心しながら読んでましたね。
この小説はわりと読みやすいので、久作さんの代表作である『ドグラ・マグラ』の難解さに挫折した方や「ハードルが高いかなー」って尻込みしていた方におすすめです。
また、「夢野久作って怪奇系のイメージしかないわ」って方も是非。
木魂という怪奇現象を取り扱ってる内容ではありますが、根っこは家族の愛情をテーマにしたものであり、今までのイメージとは違った作品かと思いますよ。
見どころの二つ目は、木魂を通して突き刺さる主人公の心情。
どうして、息子は禁止されていた線路を渡ろうとしたのか。
木魂によって、それが明らかになるとき、主人公の妻や息子への愛情や数学的才能に気づきながらもそれを隠すよう命じていたことへの後悔が押し寄せ、深く胸に刺さります。
本日は、「呼び声が聞こえた時に読む小説」として、夢野久作の『木魂』を紹介しました。
興味が湧きましたら、ぜひ手に取って読んでみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、素敵なよりみちライフを。