こんにちは、宮比ひとしです。
本日は、アーサー・C・クラーク『楽園の泉』についてご紹介します。
エレベーターで宇宙に行きたいときに読む小説
さっそくですが、宇宙エレベーターってご存知ですか?
地上と宇宙を巨大なケーブルで繋いで、その間を昇降機で行き来しようとする建造物です。
もちろん実現はしておりませんが、科学の進歩とともに夢物語ではなくなっています。
民間でロケットを打ち上げるこの時代、ひと昔前に比べて宇宙との距離感が随分と縮まってますよね。
さらにロケットを使わずに宇宙空間へと行けるとなれば、宇宙がよりいっそうと身近に感じられるでしょう。
テレビでしか見たことのない光景。
憧れの宇宙から私たちの星を眺めるって、どんな気分でしょうか。
そんな未来を想像すると、思わずワクワクしてきますね。
そんなあなたにエレベーターで宇宙へ行きたいときに読む小説をおすすめします。
本日のよりみちブックはこちら。
『楽園の泉』
作者…アーサー・C・クラーク
訳者…山高 昭
ジャンル…SF、宗教
ボリューム
難易度
『楽園の泉』登場人物
ヴァニーヴァー・モーガン
地球建設公社の技術部長
カーリダーサ王
古代タプロバニー王朝の王
マハナヤケ・テーロ
スリカンダの高僧
パーラカルマ
秘書
『楽園の泉』あらすじ
舞台は、赤道直下のインド洋に浮かぶ島タプロバニー。
むかし、そこには父や異母兄弟を殺して王についた男カーリダーサがいた。
絶対的な力を持つ王だったが、僧侶が護る霊峰スリカンダだけは手中におさめることができず、戻ってきた弟に復讐される。
また、スリカンダには伝説があった。
山の麓に生息する金色の蝶は、カーリダーサの兵士達の霊魂と信じられていた。
もしその蝶が山頂まで上がったら、僧侶は寺を捨て、山を降りなければならないというものだった。
時は22世紀。
タプロバニーの引退した政治家の元に、地球建設公社の技術部長ヴァニーヴァー・モーガンが来訪する。
モーガンは近年開発された超繊維という素材を使った宇宙エレベーター建造の夢を語った。
宇宙エレベーターとは地上と3万6千km上空の宇宙ステーションを結ぶものであり、ロケットなしの低コストで宇宙へ行けるアイデアだった。
しかし、そこには問題があった。
建造に最も適した場所が霊峰スリカンダであったのだ。
高僧マハナヤケ・テーロや秘書パーラカルマが「倒壊の恐れがあるのでは?」と疑念を投げかけると、モーガンは内心でタコマ峡谷橋の倒壊事故を思い浮かべていたものの倒壊しないと言い張る。
諦められないモーガンは世界司法裁判所で争い、一度は敗訴するものの、火星に宇宙エレベーターを作るテストという名目で実験が可能となった。
しかし、待ち受けていたのは大事故だった。
超繊維のワイヤーを宇宙ステーションから下ろすところ、予測のない強風によりワイヤーが切断し……
『楽園の泉』作者
アーサー・C・クラーク(Sir Arthur Charles Clarke)
1917年12月16日-2008年3月19日
イギリス出身
SF作家、科学解説者
ロバート・A・ハインライン、アイザック・アシモフと並びSF界のビッグスリーとして称される。
他の二人がエンターテイメント志向に対して、クラークは科学的根拠に基づいた作品が特徴。
近未来を舞台としたものや仏教思想を取り入れた物語が多数ある。
代表作…『2001年宇宙の旅』『幼年期の終わり』
『楽園の泉』説明と考察
宇宙エレベーターとは
天へと伸びる塔のように地上と宇宙をエレベーターで繋ぐ輸送機関。
当時は突飛な夢物語として受け止められていましたが、近年の科学技術の発達により理論的には十分に実現可能な領域になりつつあります。
地球を周る人工衛星は、地球の重力に引っ張られている力と遠心力で飛び出そうとする力が釣り合うことで、周回し続けています。
中でも、赤道上の高度約3万6千㎞を周る人工衛星は、地球の自転と同じ周期のため、天空の一点に静止して見えることから静止衛生と呼ばれます。
この静止衛星から地上へ向けてケーブルを垂らすと、地球の重力により落下してしまいます。
そこで、反対側にもケーブルを伸ばしバランスをとることで、衛星は静止軌道の高度を維持したまま回り続けることが可能です。
この作業を繰り返すことで、やがてケーブルは地上に到達し、地上と宇宙を結ばれることとなります。
このケーブルに昇降機を取り付け、人や物資を輸送できるようにしたものが宇宙エレベーターです。
タコマ峡谷橋の倒壊事故とは
実際にアメリカのタコマ峡谷で起きた事故。
タコマ峡谷に架かったタコマナローズ橋は建設中から風のある日に大きく揺れたり、捻れることが確認されていました。
開通後してもなお、少々の風でひどい揺れを生じていたため、側径間から地上へとケーブルを張るものの、根本的な解決とはなりませんでした。
1940年11月、早朝からの風によって振動が続き、上下の振動から捻れる揺れに変わりました。
その後、橋床が落下し、ケーブルがちぎれて崩壊。
明らかに危険な状態であったことから、両岸で通行規制が敷かれ死亡者は生じませんでしたが、この教訓を活かし、十分な強度を確保することの重要性が認識されるようになりました。
考察
クラークによると、本作は自身最後のSF長編とのこと。
この作品は、クラーク特有のSFと宗教感がミックスした展開となっています。
宇宙エレベーターを開発しようとする近未来を描いた物語であり、予言書のような印象を受けます。
また、タコマ峡谷の崩壊事故を彷彿したり、ケーブルの切断事故のシーンでは現実的に起こり得るような問題として考えさせられます。
科学の進歩とともに夢物語ではなくなった宇宙エレベーター。
いつかそれに乗り、宇宙から眺める地球を想像するだけで胸が踊りますよね。
以上、エレベーターで宇宙に行きたいときに読む小説としてアーサー・C・クラーク『楽園の泉』をご紹介しました。
本日は最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは、素敵なよりみちライフを。