こんにちは、宮比ひとしです。
本日は、人生をやり直したいときに読む漫画として手塚治虫の『百物語』のあらすじをご紹介します。
人生をやり直したいときに読む漫画
生きていると失敗や後悔することってありますよね。
若い頃は失敗を糧にして頑張ることもできますが、老いてくるとそうはいきません。
体は衰え、未来に希望を抱けなくなります。
過去は戻せないし、若返ることもできないことは分かっているけれど、もう一度人生をやり直したいと思うのは人間のサガじゃないでしょうか。
人生をリセットさせたいとき、もしも悪魔がやってきて、魂と引き換えにやり直すことが可能だとしたら、あなたならどうしますか?
こんな人にオススメ
満足のいく人生を送りたかった。
本当に愛する人と巡り合いたかった。
社会的地位を築きたかった。
今回おすすめする漫画の主人公は真面目に働いてきたにも関わらず、トバッチリにより切腹させられることとなった武士。
助かるために武士は魂と引き換えに悪魔と契約を交わします。
姿かたちを変え、新しいスタートを切る主人公はどんな運命を辿るのでしょうか。
妖怪相手に剣技入り乱れる冒険活劇と真実の愛がテーマの物語。
満足のいく人生とは、いったい何なのか問いかける感動作。
さて、そんな人生をやり直したいときに読む漫画をおすすめします。
本日のよりみちブックはこちら。
『百物語』
作者…手塚 治虫
ジャンル…ヒューマン、恋愛、アドベンチャー
ボリューム
難易度
『百物語』登場人物
『百物語』の登場人物を解説します。
一塁 半里(いちるい はんり) → 不破 臼人(ふわ うすと)
悪魔と契約を交わし、人生をやり直すこととなった武士
スダマ
一塁の魂と引き換えに、三つの願いを叶える手助けをする悪魔
コクリばば
岩山に住む老婆
玉藻前(たまものまえ)
恐山に住む絶世の美女である妖狐。
真砂(まさご)
斬りあいを嫌う、一塁半里の娘
浪岡の殿様
貧乏な小国である浪岡家の城主
堀 一康(ほり かずやす)
浪岡家の家老
『百物語』あらすじ
『百物語』は「放浪編」「恐山編」「黄金編」「下剋上編」の四部から成り立っています。
「放浪編」あらすじ
ときは戦国時代。
会計係の武士である一塁半里は、真面目に働いてきたにも関わらず、お家騒動のトバッチリを受け、公金流しの罪で切腹させられることとなった。
そこへ現れたのが、悪魔の女性スダマ。
命を助け、三つの願いを叶えることを条件に、魂を引き渡すようスダマは提案する。
「満足がいく人生を過ごすこと」「天下一の美女を手に入れること」「一国一城の主となること」
一塁半里が願い事を決め、契約を交わすと、炎が立ち上った。
コクリばばの住処まで逃げ延びた一塁半里は、妙薬により若い美男子へと姿を変え、不破臼人と名乗ることとする。
そこに置かれた巻物で目にしたのは、みちのくの果ての恐山に住む玉藻前という妖狐であった。
不破は、玉藻前こそが天下一の美女だとして恐山を目指すことにする。
ただ、ひとつ気がかりであったのが、一人娘である真砂のことであった……
「恐山編」あらすじ
みちのくの果て恐山は、生きた人間が足を踏み入れたことのない、霊や妖怪が集まるところだった。
怯えながら玉藻前まで辿り着くものの、精気を吸い取られそうになる不破。
危機一髪のところ、スダマの助けによって滝つぼに隠れることとなる。
追手とやり過ごすことができたものの、七年のときが流れていた。
スダマは妖狐を手に入れることへの覚悟がないこと、腰抜けであることを叱責する。
心を入れ替えた不破は山籠もりを決心した。
三年もの間、一日と休むことなく剣の修行に明け暮れる不破。
見違えるようになった不破に好意を寄せるスダマは、魔女が人間に恋することはあるのかと悩み……
「黄金編」あらすじ
小さく弱い国を自分の力で豊かな国にしてこそ、天下をとることができると信じて、不破は浪岡家に身を置くことを決心した。
家老である堀一康の案内で城に訪れると、浪岡の殿様に仕えたいと申し出る不破。
想像以上に浪岡家の貧しさに驚いた不破は、この国には金が出ないかとスダマに尋ねる。
金のにおいを嗅ぎつけたスダマは、地中深く潜り込む。
黄金の鉱脈を発見するが、そこに地ムカデの安達太良(あだたら)が現れ……
「下剋上編」あらすじ
手に入れた黄金を私利私欲のために使う浪岡の殿様。
浪岡の殿様に愛想がつきたことに加え、津軽・南部の両国に狙われていることに危機感を抱く不破は、力で引き下ろそうと家老に相談を持ちかける。
スダマの作った魔薬を百姓に飲ませ、クーデターを決行した不破。
下剋上は成功したものの、浪岡の殿様は女中の服に隠れ逃げ延びていた……
『百物語』作者
手塚 治虫(てづか おさむ)
1928年11月3日-1989年2月9日
大阪府豊中市に生まれ、兵庫県宝塚市で育つ
漫画家
大阪大学付属医学専門部卒業で医学博士。
在学中の1946年、四コマ漫画『マアチャンの日記帳』でデビューし、『新宝島』が大ヒット。
戦後漫画文化のパイオニアとして、様々なジャンルの作品を手がけた。
日本のストーリー漫画の確立、アニメーションなど数々の功績を遺す。
代表作…『ブラック・ジャック』『火の鳥』『ブッダ』『鉄腕アトム』
『百物語』考察
『ファウスト』との関連性、少年漫画版『ファウスト』、チンピラな下田警部、悪魔スダマとの愛について考察します。
以降、ネタバレが含まれているため、ご承知の上でお読みください。
『ファウスト』との関連性
『百物語』は、ゲーテによる戯曲『ファウスト』をモチーフにした漫画です。
十五世紀末から十六世紀中期までドイツに実在した人物ファウストを題材にした戯曲。
名前は、ラテン語で「幸福な、祝福された」という意味のfaustusに由来する。
ファウストは錬金術や占星術といった怪しげな魔術を使い、悪魔との契約、魂を奪われ体をバラバラにされたという伝説があった。
ファウストの愛すべき性格や自由な生き方、伝説に魅せられ、ベルリオーズやグノー、リストなど多くの文学者が作品化したが、出来栄えから中でも有名となったのがゲーテの戯曲である。
中学時代の手塚治虫は、ゲーテの戯曲を何度も繰り返し読みました。
強い思い入れから、20歳の頃に描き上げたものが、漫画『ファウスト』です。
発表された当時、手塚治虫は漫画を日本の文化として子供たちに浸透させるため、名作文学を題材にした執筆を精力的に取り組んでいました。
他にも、ドストエフスキーの『罪と罰』や、シェイクスピアの『ベニスの商人』の漫画化も手がけています。
ゲーテの戯曲「ファウスト」を、ディズニー風の幻想的なアニメーションタッチで漫画化した作品。
天使を下界へ落としてしまうといった乱暴をはたらいていた悪魔メフィストに、神様は学者であるハインリヒ・ファウストを地獄に引っ張ることができるかと挑発する。
勉学の奥深さに絶望するファウストの元へ現れたメフィスト。
ファウストは、自分を満足させることができたら地獄へ行くと、契約を交わしてしまう物語。
作家としての低迷期である42歳の頃に、再び『ファウスト』をモチーフとして描いたものが『百物語』です。
その後、『ネオ・ファウスト』も加わり、これらは手塚治虫「ファウスト作品三部作」とされています。
ゲーテ『ファウスト』を題材にした青年漫画であるが、手塚治虫の絶筆により未完成となった。
1970年代の学園闘争が盛んな日本が舞台。
年老いた大学教授である一ノ関は、生命の秘密と宇宙の神秘を解明することができないことに絶望する。
大学内で自殺を図った一ノ関の元に、女悪魔メフィストフィレスが現れた。
満足したときは魂を譲り渡すことを条件に、一ノ関は自身を若返らせる契約を交わす。
少年漫画版『ファウスト』
『百物語』は、言うならば少年漫画版『ファウスト』です。
あらすじの通り、悪魔と契約を交わすこと、老人が人生をもう一度やり直すため若返るといったストーリーは、三作ともに共通した内容となっています。
ただ、描いた時期や読者層が異なることから、それぞれ違った持ち味があります。
おおまかに、『ファウスト』は児童向け、『百物語』は少年向け、『ネオ・ファウスト』は青年向けと言えるでしょう。
『百物語』は、『週刊少年ジャンプ』に掲載されており、他の二作品と比べると少年漫画の色合いが濃いです。
少年誌として絶大な人気を誇る『週刊少年ジャンプ』。
意外にも、手塚治虫にとって、短編を除いて本誌で連載していたのは『百物語』のみとなっています。
舞台は戦国時代。
主人公は、勘定係の下級武士である一塁半里です。
不運のため切腹させられそうになった一塁半里は、悪魔スダマとの契約によって、不破臼人として人生の再スタートを切ります。
ちなみに、ネーミングは「一塁=ファースト(ファウスト)」「半里=ハインリヒ」「不破臼人=ファウスト」のもじりとなっています。
不破臼人となり、容姿は若い美男子となっても中身は変わりません。
武士でありながら人を斬ることができず、喧嘩も苦手なのです。
他力本願であり、困難を目の前にすると、スダマに頼ることばかり。
しかし、物語を通して不破は少しずつ成長していきます。
娘の真砂に言い寄る佐々木小次郎と刀を抜き決闘するシーン。
覚悟もないのに妖狐である玉藻前を手に入れようとして命を落としかけ、自身の不甲斐なさから三年間の山籠もりをして、剣術の修行に明け暮れるシーン。
軟弱だった主人公が、困難を潜り抜け、心身ともに強くなっていくのは少年漫画の王道とも言えるでしょう。
また、若干の古臭さは感じますが、鉄腕アトムやドラキュラが現れるといったギャグ描写は心をくすぐられます。
チンピラな下田警部
『百物語』ではチンピラな下田警部が見られます。
手塚治虫の漫画はスターシステムを採用しており、登場人物を役者に見立てて、作品ごとに役柄を演じるという手法がとられています。
基本的には同じようなキャラクター設定が多いのですが、たまに普段と違った役どころに抜擢されることもあるのです。
『百物語』においては、下田警部が該当します。
下田警部といえば、田鷲警部や中村課長に比べるとシリアスな警察官の役が思い浮かびますね。
『奇子』『バンパイヤ』『七色インコ』どれも真面目なイメージのキャラクターばかりですが、下の画像をご覧ください。
なんと、『百物語』では下田警部がガラの悪いチンピラ侍を熱演しています。
かなりのレアケースなので、一見の価値アリです。
悪魔スダマとの愛
魅力的なキャラクターである悪魔スダマとの愛について考察します。
たくさんの魅力的なキャラクターが登場しますが、スダマなくして『百物語』は語れません。
ゲーテ『ファウスト』でのメフィストフェレスにあたる立ち位置のキャラクターであるスダマ。
手塚治虫の『百物語』においては、悪魔であるものの、かわいらしくキュートな外見に、不破を励ましたり、嫉妬したりと愛嬌たっぷりの性格となっています。
特筆すべきは、人間と悪魔との愛について描かれている点です。
契約相手の悪魔を女性に置き換えるアイデアは、すでにハイネによってバレエ台本の『ファウスト』で展開されていますが、人間と悪魔が愛し合うストーリーは手塚治虫のオリジナルであり、日本の非キリスト教的風土から生まれたものと考えられます。
様々な経験を経て、心身ともに成長を遂げる不破に対して、スダマはしだいに好意を寄せ、人間に恋をすることなんてあるのか、と悩みます。
物語の終盤、一国一城の主という願いを叶えた不破は、天下一の美女は目の前にいるとスダマに愛を告げます。
そして、不破は充分に満足したことを伝えるのです。
「人はいろんな生き方がある。欲を言えばキリがない」
「天下をとるのが満足な人もいるが、せいいっぱい人間が生きられたかどうかってことなんだ」
命が終わる覚悟で、口にしました。
その後、国を乗っ取られ自害を迫られた不破にスダマは「私を嫌いだ、と言えば助けることができる」と説得します。
けれども、スダマを裏切ることはできないと切腹するのです。
契約に従い魂を手にしたスダマは、不破の魂だけは自由にさせてあげたいと手放しました。
魂を解放するという結末は、真実の愛と呼べるのではないでしょうか。
以上、人生をやり直したいときに読む漫画として手塚治虫の『百物語』のあらすじをご紹介しました。
最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは、素敵なよりみちライフを。