こんにちは、宮比ひとしです。
本日は、独り孤独なクリスマスに読む小説として道尾秀介『ノエル a story of stories』のあらすじをご紹介します。
『ノエル』は3つの短編とエピローグで構成されているものの、全体を通して繋がりを持った物語となっています。
『光の箱』『暗がりの子供』『物語の夕暮れ』それぞれの登場人物やあらすじを解説、考察していきます。
考察に関してはネタバレありのため、ご承知の上でお読み下さい。
独り孤独なクリスマスに読む小説
![独り孤独なクリスマスに読む小説](https://miyayori.com/wp-content/uploads/2020/10/独り孤独なクリスマスに読む小説.jpg)
「なにがメリークリスマスだ。バカ野郎! ヒック」
「こちとら、メリークルシミマスだ。バカ野郎! ヒック」
なんて言って、呑んだくれているあなた。
クリスマスって何とかなりませんかね。
毎年毎年、懲りずにやってきては、そこらじゅうを賑やかにしくさって。
クリスマスにつられて世の恋人どもはハッピーモード全開になるわけですよ。
寒いねっつって腕組んで歩いちゃったり、プレゼント交換しちゃったり、ここぞとばかり二人の世界に入り込むんですよ。
でもね、クリスマスって言ったら、イエス・キリストの生誕祭ですよ。
世の恋人どもは、その辺わきまえてるんですかね?
恋人どもの頭の中は、キリストさんのキの字もありゃしませんよ。
そりゃ、キリさんも怒るって。
ご存じですか?
一節によると、キリさんは生涯童貞とされているとか、いないとか。
キリさんが童貞だったら、どうするつもりなんですかね。
自分のお祝いなのに、クリスマスムードにかこつけて恋人たちが乳繰り合ってりゃ、たまんないですよね。
天罰くだりますよ、天罰。
本来、クリスマスってのは、厳かで厳粛であるべきなんですよ。
独り孤独に、チキンをむさぼりながら小説でも読むべきなんですよ。
そしたら、キリさんも納得するはずです。
ついでに、その小説が心温まる話だったら最高のクリスマスじゃないですか。
「メリークリスマス! メリメリクリスマス!」
って、思わずバンザイしたくなりますよ。
さて、そんな独り孤独なクリスマスに読む小説をおすすめします。
本日のよりみちブックはこちら。
『ノエル a story of stories』
作者…道尾 秀介
ジャンル…ヒューマン、ミステリ
ボリューム
難易度
『光の箱』
![光の箱](https://miyayori.com/wp-content/uploads/2020/10/光の箱.jpg)
『光の箱』の登場人物、あらすじを解説します。
『光の箱』登場人物
卯月 圭介(うづき けいすけ)
十四年ぶりに故郷を訪れた童話作家
富沢(とみざわ)
高校で三年間一緒だったクラスメイト
岩槻(いわつき)
中学時代、圭介に暴力を振るった同級生
葉山 弥生(はやま やよい)
黒髪に、白く小さな顔をした同級生の女の子
『光の箱』あらすじ
クリスマスシーズン、童話作家である卯月圭介は十四年ぶりに故郷へと訪れていた。
圭介を雑誌で発見したのは高校時代のクラスメイトの富沢だった。
富沢の案内により、同窓会に出席することを決めた圭介の頭は、葉山弥生が来るのかばかり考えている。
到着したホテルのラウンジで流れていた曲は、ジョニー・マークスの「赤鼻のトナカイ」だ。
目を閉じると、中学時代の記憶がよみがえってくる。
中学生の頃、貧乏を理由に圭介は同級生である岩槻から肉体的な暴力を振るわれていた。
そんな中、情けなさに苛立った目でもなく、同情した目でもなく、ただ静観していた女の子が弥生だった。
自宅への帰路で、不意に声をかけてきた弥生。
「絵本、作ろうよ」
『暗がりの子供』
![暗がりの子供](https://miyayori.com/wp-content/uploads/2020/10/暗がりの子供.jpg)
『暗がりの子供』の登場人物、あらすじを解説します。
『暗がりの子供』登場人物
莉子(りこ)
妹が産まれてくることを喜ぶことができない女の子
浩美(ひろみ)
妊娠中の莉子の母
正孝(まさたか)
莉子の父
祖母
病院に入院中の莉子の祖母
『暗がりの子供』あらすじ
莉子は雛壇の中に隠れながら、母と父はいつ探しにくるだろうかと考えていた。
母の浩美は最近イライラしているため、雛壇から急に飛び出したらビックリしつつも笑ってくれるだろう。
そんな興奮を抑えようと、図書館で借りてきた本である『空飛ぶ宝物』を開けると、作者は卯月圭介とある。
居間から両親の会話が聞こえてきた。
驚かせようと待ち構えていたけれど、戻っていたことに気づかず、莉子は出るタイミングを失ってしまう。
「この子のぶん、新しく買うのは最小限にするわ」
母が膨らんだお腹をさすりながら言うのが、想像できた。
父である正孝との会話から、入院中の祖母の手術と治療にお金がかかることが莉子にも理解できた。
退院したら一緒に暮らす予定だが、介護が必要となるため、両親の気分は重苦しかったのだ。
「あの子、どこへ行ったのかしら」
思い出したように、母がぽつりと呟いた。
新しく産まれてくる妹は「この子」で、自分のことは「あの子」と呼ぶことに莉子は哀しくなる。
妹が産まれることよりも、大好きな祖母と暮らせる方が莉子にとっては嬉しかったが……
『物語の夕暮れ』
![物語の夕暮れ](https://miyayori.com/wp-content/uploads/2020/10/物語の夕暮れ.jpg)
『物語の夕暮れ』の登場人物、あらすじを解説します。
『物語の夕暮れ』登場人物
与沢(よざわ)
ボランティアで読み聞かせをする元教師
重森(しげもり)
児童館で働く女性
『物語の夕暮れ』あらすじ
児童館「まつぼっくりクラブ」で、読み聞かせのボランティアを務める与沢。
来週で辞めることとなり、女性職員の重森や子供たちから惜しまれながら玄関に向かうところで、児童館で購読している児童文学の雑誌を目にする。
そこに写っていたのは、長年、与沢が住んでいた家だった。
現在はリフォームされ、若い童話作家が暮らしているとあった。
マンションに戻ると、鳥籠の中でインコが「ときちゃん、ときちゃん」と呟いていた。
ときちゃん、とはインコの名前で、亡くなった妻が呼びかける声を真似ている。
妻に先立たれ、生きる意味を見失った与沢は、人生最後の我儘のつもりで雑誌に載っていた童話作家に手紙を送る……
『ノエル a story of stories』作者
![『ノエル』作者](https://miyayori.com/wp-content/uploads/2020/08/『鬼の跫音』作者について.png)
道尾 秀介(みちお しゅうすけ)
1975年5月19日-
兵庫県芦屋市出身
小説家、歌手
玉川大学農学部卒業後、住宅機器の企業に就職する。
1999年に『どうして犬は』で「小説現代」のショートショートコンテストに入選し、掲載。
2004年、『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、小説家デビューとなる。
2007年に『シャドウ』で本格ミステリ大賞、2011年に『月と蟹』で直木賞と受賞。
エッセイや音楽活動などジャンルを超えた多彩な作品を手がけている。
また、ペンネームである道尾は、都筑道夫に由来する。
代表作…『向日葵の咲かない夏』『カラスの親指』『月と蟹』
![道尾秀介『鬼の跫音』短編ホラーのおすすめ小説](https://miyayori.com/wp-content/uploads/2020/08/道尾秀介『鬼の跫音』短編ホラーのおすすめ小説-320x180.jpg)
![道尾秀介『緑色のうさぎの話』](https://miyayori.com/wp-content/uploads/2020/09/道尾秀介『緑色のうさぎの話』2-320x180.jpg)
![道尾秀介『月と蟹』鎌倉を旅行する時に読む小説](https://miyayori.com/wp-content/uploads/2020/11/道尾秀介『月と蟹』鎌倉を旅行する時に読む小説-320x180.jpg)
『ノエル a story of stories』考察
![『ノエル』考察](https://miyayori.com/wp-content/uploads/2020/10/『ノエル』考察.jpg)
『ノエル a story of stories』にある『光の箱』は、新潮社のアンソロジーとして出版された『Story Seller』に収録されていた作品。
『暗がりの子供』『物語の夕暮れ』を書き足し、書籍化されました。
『Story Seller』
新潮社イチオシのドリームチームによる読み切り小説。
伊坂幸太郎、有川浩、米澤穂信など7名の作家の短編が、一度に味わえてしまう豪華な一冊。
新規開拓の入門書にオススメです。
本作には童話作家が登場人物であることから様々な童話が挿入されています。
その中のひとつ、『リンゴの布ぶくろ』は、道尾秀介が『ノエル』を書く前、会社員の頃に書いた作品です。
『ノエル』は、童話の優しい世界観と現実の非情な世界観が絶妙に融合した物語。
『光の箱』では、同級生の暴力に耐える少年と父の性癖に悩む少女が絵本を通して心を通わせます。
『暗がりの子供』では、生まれつき左脚が不自由で太っていることから、産まれてくる妹を素直に喜べない女の子。図書館で借りてきた童話の主人公である真子を通して、現実と物語の間で心が揺れ動きます。
道尾秀介は、子供の心情を巧みに表現する稀有な作家ですね。
『物語の夕暮れ』では、妻に先立たれ、生きる希望を失った老人が主人公です。
体が不自由となり、老いていく人生に意味を見出せないのは、子供とは違った孤独感がありますよね。
孤独感を抱えるそれぞれの登場人物は、物語を通して哀しく辛い現実に微かな光を見出します。
それはきっと、この小説を読む人にとっても同じように、光を感じることができる物語ではないでしょうか。
ちなみに表紙は、藤城清治の影絵『月光の響き』です。
最後に、心に彩る文章をご紹介します。
まだ物語をつくったことのない人は、つくってみなさい。
お話の世界に逃げ込むという意味じゃないんだ。
物語の中で、いろんなものを見て、優しさとか強さとか、いろんなものを知って、それからまた帰ってくるんだよ。
自分でつくる物語は、必ず自分の望む方向へ進んでくれるものだから。
以上、独り孤独なクリスマスに読む小説として道尾秀介『ノエル a story of stories』をご紹介しました。
最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは、素敵なよりみちライフを。