こんにちは、宮比ひとしです。
本日は、米澤穂信『ボトルネック』についてご紹介します。
はじめに
始めに断っておきますと、今回の物語は生きることの素晴らしさを説いたり、明るい未来を展望させてくれる類のものではありません。
むしろ、死への気持ちを助長させることさえあります。
こう書くと、自殺すること後押ししているように思われるかもしれませんが、そういった思いは全くありませんので誤解ないようにお願いします。
生きていると楽しいことばかりではなく、辛い、悲しいと感じることが多々ありますよね。
人間関係に思い悩んだり、小さなことで争ったり、老いや病、犯罪、紛争、災害、飢餓、明るいものよりも圧倒的に暗いベールで世界は覆われているとさえ感じます。
産まれたとき、家庭というのは世界そのもの。
その環境が酷いと感じるならば、その先の未来にも期待をもてなくなるのは当然です。
ですから、自殺を思い悩む方の気持ちはよく分かります。
ただ、こうも思います。
死は生に内在しており、生きるということは死と向き合うことだと。
なぜ死にたいのか?
その死にたくなる気持ちは変えられないのか?
死にたくなる環境は変えられないのか?
あなたの捉え方や生き方しだいで、それらは変えられるかもしれません。
そんなあなたに家庭環境から自殺したいときに読む小説をご紹介します。
本日のよりみちブックはこちら。
『ボトルネック』
作者…米澤 穂信
ジャンル…青春、家族愛
ボリューム
難易度
『ボトルネック』登場人物
嵯峨野 リョウ(さがの りょう)
事故死した恋人を追悼するため東尋坊を訪れた青年
諏訪ノゾミ(すわのぞみ)
東尋坊の崖から転落死したリョウの恋人
嵯峨野 サキ(さがの さき)
パラレルワールドの世界で存在するリョウの姉
『ボトルネック』あらすじ
嵯峨野リョウは亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていた。
恋人だった諏訪ノゾミは、二年前に東尋坊の崖から転落し、命を落とした。
リョウは自殺ではないと信じているし、警察もそう結論づけていた。
そんなとき、不機嫌な調子で母親から兄が死んだとの知らせが入り、通夜のため、とんぼ返りしなければならなくなった。
両親はともども不倫相手とおり、兄の死は人の恋路を邪魔する嫌がらせのようだった。
弔いの白い花を投げたとき、かすれ声が聞こえた。
そして、何者かに誘われるようにリョウは断崖から墜落してしまう。
気がつくと、見慣れた金沢市の街にいた。
不可解な思いで一旦自宅に戻ることにしたリョウを迎えたのは、見知らぬ女性、嵯峨野サキだった。
サキとリョウは互いに自分の家であると主張する。
二人の主張は食い違うものの、家族しかしらない情報を持っていた。
警察を呼ぼうとするリョウに、サキは意思疎通を図ることを提案する。
確認する中で、腹の中で死んでしまった姉の存在が一致しないことに気がつく。
サキは想像を膨らまし、ある解釈を導き出した。
二つの可能世界が交わっていること。
つまり、姉が無事に産まれてリョウが産まれなかった世界と姉が亡くなりリョウが産まれた世界。
会話を重ねていくうちに、リョウがいた世界といくつかの違いがあることに気がつき、二人は「間違い探し」を続けていく。
次第に、夫婦仲の悪かった両親が仲良く過ごしていること、死んだはずの兄が元気に暮らしていることなど、リョウが存在しない世界の方がうまく回っていることを思い知らされることとなる。
何より、衝撃を受けたのが事故死したはずの恋人、諏訪ノゾミが生きているということだった……
『ボトルネック』作者
米澤 穂信(よねざわ ほのぶ)
1978年3月-
岐阜県出身
小説家
大学在学中に個人小説サイト「汎夢殿(はんむでん)」を運営し、作品を発表する。
大学卒業後、2001年に『氷菓』で第5回角川学園小説大賞のミステリー・ホラー部門奨励賞を受賞。
以降、日常生活にあるふとした謎を解明する青春ミステリーを中心に手がけ、ミステリー作家として活躍している。
代表作『満願』『氷菓』『王とサーカス』
『ボトルネック』考察
主人公リョウと姉サキが入れ替わったパラレルワールドでの世界を通して、自身の存在意義について考えさせられる物語となっています。
自分のいない世界では、身近な人物が幸福に暮らしているのを目の当たりにしたリョウ。
読んでいると暗く陰鬱な気分になりますが、姉との関係を通じて、過酷な家庭環境でも自分自身の行動によって明るい未来に転じる可能性を秘めていると感じられる内容でもあります。
人生に絶望すると、死にたくなることはあります。
山や海といった広大な自然に抱かれ、同化したい気持ちになることもあります。
ただ、死は誰にも平等におとずれます。
今ある生命は限られたひとときです。
大半の人がそれを大切にしています。
自分自身の命だけでなく、人の命も。
自ら命を経つ行為は衝撃を与えますし、あなたのことを想っている人に対して哀しませるでしょう。
生きるということは、死と向き合うことだと思います。
その中で瞬くような光が存在します。
キレイな景色や人との触れ合い、それは生きることでしか感じられないことです。
それを見つけられるかどうかはあなた次第ではないでしょうか。
以上、家庭環境から自殺したいときに読む小説として米澤穂信『ボトルネック』をご紹介しました。
本日は最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは、素敵なよりみちライフを。