こんにちは、宮比ひとしです。
オリジナル小説『母とのシエスタ』その1です。
空っぽになったアリストテレスの四原因説
物事には「原因」と「結果」がある。
母が昼間に眠れないことが「結果」とするならば、「原因」はなんだったろうかと悩んでみる。
外が騒がしかったことや枕が合わなかったこと、母自身が朝の十時まで寝過ごしたこと、様々な要因が頭に浮かぶ。
もしかしたら、僕がろくに定職を持たず、昼間から自室にこもり、酒を呑んでは読書に耽っているせいかもしれない。
とにかく「原因」は一つでないということだ。
アリストテレスの四原因説によれば、質料因、形相因、作用因、目的因の四種に区別するらしいが、そんなことを知っていたところで母を眠りに誘うことはできない。
いや、母のことだから長々とした説明にくたびれ、意外にも子守唄的な効果を発揮するかもしれない。
かといって、僕がその役割を担うのは少々憂鬱だった。面倒だった。
ブランデー、アニゼット、オレンジ・キュラソーをグラスに注ぎ、最後に卵黄を入れる。それを比較的汚れていない左手の薬指で掻き混ぜた。
ぐいと呑み干すと、僕の頭の中には四原因説などという理論は始めから存在しなかったかのようにグラスは空っぽになった。
知識が増すごとに、どうしようもない人間だと思い知らされては、僕はズタズタに打ちのめされる。
なぜだかわからないが、そう実感するのだ。
だから、酒を呑んだ。知識を蚊帳の外へと放り出すことで一つ利口となる。
今一度、「原因」と「結果」について考える。
ジェームズ・アレンの法則によると、僕自身の気持ち一つで「結果」は一変するのだそうだ。
人生を破壊するのも、素晴らしいものにするのも僕しだいだ、と彼は肩をたたく。
僕の行動によっては、母は穏やかに眠ることができたのだろうか。
今日の出来事を振り返ると、扉をノックする音が耳の奥で響いた。
コンコン。
その2「天変地異、新大陸の形成、そしてメルティング・ポット」へ続く