こんにちは、宮比ひとしです。
本日は、リチャード・バック『かもめのジョナサン』を、「限界突破したい時に読む小説」として紹介します。
限界突破したい時に読む小説
さて、何かしらに取り組んでて自分の限界を感じてしまうことってないですか?
・部活の戦績が優れない
・仕事で昇進できない
・ボーリングのスコアがベストを越えられない
・お腹空かせ、ベルト緩めてバイキングに行ったのに、すぐに満腹
・必死で化粧してるのに、いつもあだ名はゴンザレス
「俺なんて、ダメダメだ~」
「私なんて、だめよ~ダメダメ」
なんて、嘆きたくなりますよね。
さらに、取り組む内容が、周りから理解されないことだとすると、いっそう萎えちゃいます。
けれども、純粋な気持ちでチャレンジしたらどうなるでしょう。
食事するのも忘れ、寝ても覚めても頭から離れないほど打ち込めたらどうでしょう。
周囲の視線なんて気にならないくらい熱中できたらどうでしょう。
きっとその時こそ、自分の限界を突破できるかもしれません。
さて、そんな「限界突破したい時に読む小説」をおすすめします。
本日のよりみちブックはこちら。
『かもめのジョナサン』
作者…リチャード・バック
訳者…五木 寛之
写真…ラッセル・マンソン
ジャンル…寓話、宗教
ボリューム
難易度
『かもめのジョナサン』登場人物
『かもめのジョナサン』の主な登場人物について解説します。
ジョナサン・リヴィングストン
食べることよりも飛ぶことが好きな、風変わりなカモメ。
サリヴァン
もう一つの世界に住むジョナサンの教官。
張(チャン)
瞬間移動することができるもう一つの世界の長老。
フレッチャー
気性が荒いジョナサンが教える初めての生徒。
ヘンリー・カルヴィン
一族から追放されたジョナサンの生徒
マーティン・ウィリアム
小柄で大人しい低空飛行の名手であるジョナサンの生徒。
チャールズ=ローランド
<聖なる山の風>を昇ったジョナサンの生徒。
テレンス・ローエル
ジョナサンから飛行法を学びたいと申し出たため追放された八番目の生徒。
カーク・メイナード
左の翼が不自由なため、飛ぶことができないカモメ。
『かもめのジョナサン』あらすじ
無数のカモメの群れが、我勝ちに食物の切れ端を啄むのを他所に、ジョナサン・リヴィングストンはただ一羽遠く離れた場所で飛行する練習に夢中になっていた。
全てのカモメにとって、重要なのは飛ぶことではなく食べることだったが、ジョナサンは他のどんなことよりも飛ぶことが好きだった。
おかしな訓練に明け暮れる息子に呆れた両親は、腹の足しにならない空中滑走ではなく冬の魚を手に入れる手段を研究するべきだと諭す。
ジョナサンは一旦受け入れ、数日は他のカモメ達と同じように、パンや魚の切れ端を求めて漁船の周囲を飛び回った。
しかし、ジョナサンには無理だった。
飢えながらも、より速く飛行する練習を再開する。
ついに、宙返り、緩横転、分割横転、背面きりもみ、逆落とし、大車輪など数多くの高等飛行技術を発見し、他のカモメが知ったら自身の<限界突破>を喜ぶだろうと希望に溢れた。
ジョナサンが降り立つと、群れのカモメ達は<評議集会>の隊形を組んでいた。
発見を分かち合い、無限の地平を皆に見せてあげたいと思いながら中央に進むと、長老はカモメ一族の尊厳と伝統を汚したとして社会からの追放を言い渡した……
『かもめのジョナサン』作者
『かもめのジョナサン』の作者について解説します。
リチャード・バック(Richard Bach)
1936年6月23日-
アメリカ合衆国イリノイ州生まれ
飛行家、作家
ロングビーチ州立大学を中退し、戦闘機パイロットとしてアメリカ空軍に入隊する。
その後、航空会社、航空雑誌の編集者、地方巡業の曲芸飛行家、整備士など転職を繰り返す。
一方、飛行機に関するルポルタージュ風の作品を執筆、1963年に「Stranger to the Ground(王様の空)」で作家デビュー。
1970年に『かもめのジョナサン』を発表し、当初は話題に上らなかったが、ヒッピー文化の中、徐々に口コミで広がり、1972年に突如ベストセラーとなる。
2012年8月、自家用の小型飛行機を操縦しているところ、電線に引っかかり墜落事故を起こす。
瀕死の重傷を負い、これをきっかけとして2014年に『かもめのジョナサン』の4章を発表。
また、作品の全ては、飛行小説の形をとっている。
代表作…『イリュージョン』『One』『フェレット物語』
『かもめのジョナサン』訳者
『かもめのジョナサン』の訳者について解説します。
五木 寛之(いつき ひろゆき)
1932年9月30日-
福岡県出身
小説家、随筆家
旧姓は松延(まつのぶ)。
少年時代に朝鮮から引揚げ、早稲田大学露文科を中退する。
ラジオ番組の制作、業界紙の編集長、CM制作、放送作家、作詞家などを経て、『さらばモスクワ愚連隊』で小説家デビュー。
1967年に『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞受賞。
価値体系や権威を批判する主人公や現代社会の青年の虚無感を表現し、若者を中心に幅広い層から支持を得た。
その後、『かもめのジョナサン』の翻訳、『大河の一滴』といったエッセイ、蓮如や親鸞などの仏教・浄土思想の作品を手がける。
代表作…『さらばモスクワ愚連隊』『蒼ざめた馬を見よ』『青春の門』
『かもめのジョナサン』考察
『かもめのジョナサン』を「なぜヒッピーが好んで読んだのか」「限界を感じた時に心を支える名言」の項目に分けて考察します。
以降はネタバレを含んでいるので、ご了承の上でお読みください。
なぜヒッピーが好んで読んだのか
『かもめのジョナサン』は、1970年代のアメリカにおいて、ヒッピーを中心に幅広く支持を受けました。
ヒッピー(Hippie)
1960年代の後半、アメリカ合衆国に誕生した反体制的な人々及びムーブメント。
搾取的なキリスト教を批判する一方、東洋の宗教、哲学を重んじており、自然での共同生活、反戦運動、公民権運動、性解放、フリーセックス、ドラッグ解禁、男女平等、差別の廃止などを通して、社会に変革を訴えた。
1960年代後半のアメリカにおいて、若者を中心に「自然、平和、セックス、自由」を愛する思想を持った人々をヒッピーと呼びました。
平和を愛するヒッピーは、当時泥沼化していたベトナム戦争に対して反戦運動を起こし、これまでの制度を批判します。
ヒッピーの伝統社会の否定とともに個人を尊重する考えは、『かもめのジョナサン』の主人公であるジョナサンの生き方そのものと言えます。
純粋に飛ぶことに魅力を感じるジョナサンは、飛ぶことは餌を食べるためとするカモメの教えや伝統に反するとして一族から追放されます。
孤立しても尚、ジョナサンは自由な生き方を望み、変えることなく日々飛行訓練に明け暮れます。
また、ヒッピーは東洋宗教や哲学を重んじていました。
『かもめのジョナサン』には、東洋の思想を連想させるシーンが数多く存在します。
流刑場所である<遥かなる崖>から遠く離れた後、訓練を続け、数百キロもの速度で飛んだり、様々な飛行方法を会得するジョナサン。
さらに星のように輝く二羽のカモメに導かれ、もう一つの世界へと辿り着き、そこに住む長官サリヴァンや長老チャン(「張」と表記され、中国人に多い名前)の教えによって、瞬間移動まで身に着けるのです。
また、翼が使えないカモメがジョナサンの一言で急に飛べるようになったり、岩に激突したカモメを蘇らせる描写があります。
現実を超越した神がかり的な能力は、良く捉えればスピリチュアル、悪くすればカルト的な雰囲気をはらんだ作品と言えるでしょう。
村井秀夫がオウム真理教に入信した理由として、『かもめのジョナサン』の心境となったと述べてもいますね。
こういった伝統社会の否定や個人の尊重、東洋宗教を彷彿させるジョナサンの生き様及び物語が、ヒッピーにとって共感を呼んだと考えられます。
限界を感じた時に心を支える名言
『かもめのジョナサン』は、度々、サン・テグジュペリの『星の王子さま』と類似性が指摘されます。
作者が飛行機のパイロットであること、寓話であること、その他に子供でも読了することができる短い小説でありつつ、深読みができる内容となっていることが考えられます。
ただ、前項で述べたように東洋宗教を彷彿させるスピリチュアルな雰囲気が漂っていますが、単純にカモメのジョナサンがひたすらに飛行することに生きがいを感じ、飛行法を探求する一種の自己啓発本としても楽しむことができます。
中でも、心に残る素敵な名言が数多く存在しますので、ご紹介します。
「ぼくは自分が空でやれる事はなにか、やれない事はなにかってことを知りたいだけなんだ。ただそれだけのことさ」
群れと同じように振る舞うことをせず、餌を取るために飛ばないことを嘆く母親に、ジョナサンが言ったセリフです。
彼にとってスピードは力だった。スピードは歓びだった。そしてそれは純粋な美ですらあったのだ。
恐怖心に打ち勝ち、千五百メートルもの上空から海面へと降下し、時速三百キロを超えた時のジョナサンの心境です。
ただ一つの悲しみは、孤独ではなく、輝かしい飛行への道が目前にひろがっているのに、そのことを仲間たちが信じようとしなかったことだった。
一族から追放され、流刑の地である<遥かなる崖>から離れた時のジョナサンの心境です。
「わたしたちはここで学んでいることを通じて、つぎの新しい世界を選びとるのだ。もしここで何も学びとることがなかったなら、次の世界もここと同じことになる。それはつまり、乗り越えなきゃならん限界、はねのけるべき鉛の重荷が、もとのままに残ってしまうことなんだ」
もう一つの世界に辿り着いたジョナサンに対して、長官サリヴァンが言ったセリフです。
「もしわたしたちの友情が時間や空間のようなものにたよって成立しているものだったなら、やがてわたしたちが時間と空間を克服したあかつきには、どういうことになる? それはわれわれの絆自体をも破壊することになるんじゃないか! 空間を克服したあかつきには、われわれにとって残るのはここだけだ。そしてもし時間を征服したとすれば、われわれの前にあるのはいまだけだ。そうなれば、ここといまとの間で、お互いに一度や二度ぐらいは顔をあわせることもできるだろう」
もとの世界へ戻ることを惜しむサリヴァンに対して、ジョナサンが言ったセリフです。
「われわれ一羽一羽が、まさしく偉大なカモメの思想であり、自由という無限の思想なのだ」
生徒に繰り返し語ったジョナサンの言葉です。
以上、「限界突破したい時に読む小説」として、リチャード・バックの『かもめのジョナサン』を紹介しました。
興味が湧きましたら、ぜひ手に取って読んでみてください。
最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは、素敵なよりみちライフを。